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―――雪の降る日のお話。
外の世界ではクリスマス、と言う行事のあるこの時期にも、幻想郷ではゆっくりと、確実に冬という季節が進んでいく。
白く覆われた山の景色は相も変わらず、白く覆われた木々達が所狭しと山の表面を占拠し、一面を白一色へと染め上げている。
しかし、これで冬の本領発揮ではないのだ。これから更に厳しい冬が訪れて、そして幻想郷をすっぽりと包んでいく時期がやって来る。その厳冬の前の静けさ、と言わんばかりにのんびりとした時間が今は流れている。
そんな幻想郷の風景、その雪山にひっそりと住まう、妖怪と妖精のお話。
「ゆき、雪ですよ!」
リリーは初めて雪を見る子供であるかの様に、その場を駆け回らんとせん勢いではしゃぎ出す。普段はおっとりとして、のんびりとした空気を漂わせている彼女ではあるが、好奇心の方が勝っている今の状況では、そんな普段の姿などどこ吹く風なのである。
「はいはい、雪ね。って雪はあなたはいつも見てきたじゃない」
しれっと、そっけなく答えるレティ。と言うのも、ここ最近毎日の様に外に繰り出そうとする度に、決まってリリーが雪を見てはしゃぎ出すので、その相手を務めるのがだんだんと億劫になって来たかららしいのだ。
それに、レティにとっては雪と言うものは自分の季節と同じ場所に常に存在し続けるものであり、珍しくもなんとも感じないのだ。あって当たり前、それが彼女における常識であるかの様に、そんな風に捉えているからなのだろう。
「雪なんてあっても邪魔なだけよ、きっと。私から見れば、これは副産物の様なものだけど―――ってああ!」
レティが話している間にも、我慢出来なくなったのかリリーはその小さな体を雪の中へと躊躇う事無く投じた。いつか見た光景の様に、頭から綺麗に雪の中へとダイブ。そして、「前が見えませんー!」と足をばたばたさせながら、それをやれやれと言った具合に雪の中から掘り起こして元の位置に立たせるレティ。
そしてレティはふぅ、と一息つく。その後、きょとんとして落ち着いた風を見せるけれども、体が徐々に落ち着きを失い、ふるふると震えて行くリリーのその様を見て、口元に指を添えて、くすり。と一回笑う。
洞穴の外に出た場所で二人はこんなやり取りを、毎回の様に行っていた。
「ところで」
雪山を歩いていく二人。その歩みをふと止めたレティが、リリーに訊ねる。
「はい、なんでしょうか?」
「あなたが雪を好きな理由って何かしら?」
「好きな理由ですかー…」
首をきょとん、と傾げてリリーはその場に立ち止まり、じっと考える風を見せる。
「さっきも言ったけど、雪って邪魔な部分も大きいのよね。私が寒気を集めたりすると、その副産物として雪が降ったりはするのだけど、それでも好意的な見方を出来ると言うのは、そうそうある訳では無いわけで。内心私も、疎ましく思う部分は、あまりにも量が多かったりするとある訳だし…」
ずらずらと雪に対しての自分の考えを並べていくレティ。冬に生きる妖怪とは言え、寒いと感じる事は少なくても、邪魔である、とは思ってしまうらしい。それもそうなのだ、雪はしっかりと質量を持った存在であり、冬に生きる彼女のすぐ傍に位置し、そして存在し続けているのだから。
「白いからですよ」
「へ?しろ…いから…?」
「そう、白いからです」
えらく漠然とした回答を出したリリーに対し、レティは素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
そんな表情を見ることも無く、リリーは一歩前へと歩みを進め、レティに背を向けたまま話していく。
「私が生まれた時には、右も左も分かりませんでした。何も分からない、何も知らない。そんなこの広い世界にただ一人、投げ出されるかの様に生まれた私の、その傍に居てくれたのは、この雪達でした」
「そうね、あなたはこの冬に生まれ、そして一面の雪景色の中で私と出会った」
「レティさんに見つけて貰うまでは、ずっと雪の中でしたからね。一面の白、その白って言うイメージがやっぱり私の中で強くて、雪と言う物は不思議と安堵感を覚えられてしまうんです」
「なるほど、ね」
「でもああ言った事があって、それで初めてレティさんと、こうやって出会う事が出来ました。その後も、こうやって一緒に居られてますから」
笑顔で振り返るリリー。その表情を見て、レティも笑顔で返す。
「そうね、あの事が無ければ恐らくは私達は出会う事も無かったでしょうから…」
「私を見つけ、そしてこうやって一緒に居てくれた事に、改めて感謝させて下さい」
リリーはそう言うと、ぺこりと頭を下げる。
「ふふっ、らしくないわ。勿論、あなたらしくないって言うのではなく、こんな堅苦しい空気は似合わないわ、って言いたいの」
そう言うとレティはリリーをひょいと腕で抱きかかえ、そのまま歩いていく。
「私はね、あなたを仕方なく拾ったとか、そういうのじゃないの。だから、義務的なものは何も感じていなし、勿論それを押し付けようとも一切思わない。あなたがそこに居て、私がそこに居た。ただ、それだけのことなのかも知れない」
そこまで言うと、レティはふっと目を閉じ、ぽそっとその後を続ける。
「―――けれども、そう言ってしまっては嘘が少しばかり混じってしまうかもしれないわね」
私がその小さな体を守りたいと思ったから。白の中の白、その白が白へ同化して、白となり消えてしまう事への危惧。それを感じたからゆえに、私はこの白を守りたいと思ったのだ。
そう思っていても、そこだけは口にしない。口にしようがしまいが、私がそれを遵守出来ればいいのだ。
吐き出した言葉の溶けた雪は、そっと静かに私たちを見守り、そして包んでいく。
この雪山を。
ふもとの人間の里を。
幻想郷全土を。
この年の冬も、どうやら一段と寒いようだ。
いずれ冬にも終わりは訪れる。そんなことはもう既に分かっていることだ。
その終わりに追いつかないように、ゆっくりとした時の中で、しっかりと刻んでいく。
二人同士作りあう、思い出と言う名前の宝物を。
しっかりと、自分の手で、作り出していくのである。
東方Projectスキー。